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さくらんぼくも
さくらんぼっき


「この子紹介してくんない?」

現代の日本の若者の中ではなくてはならない言葉の一つだ。この言葉が思春期真っ只中の僕の恋の始まりだった。



始まりはこうだった。友達が持っていた写真(俗にゆうプリクラというやつだ)に写っていた子が僕の好みだったので、文頭の言葉でその子の連絡先を手に入れた。そして現代の若者の生活の一部、メールというものを繰り返していると、当然むこうから僕に告白してきたのだ。まだ顔も声もわからない人物に対してだ。今はその子の告白はどうかしてると思っているが当時は何の違和感もなくさらりとOKした。そしてとうとう会う約束を押した。

午後一時のテニスコートの前、僕はそこで彼女を待っていた。やはり緊張する。その緊張で昼に食べた冷やし中華が胃の中で踊り狂って少し気分が悪くなった。

「・・・来た。」

僕は一瞬で彼女の外見を分析した。おそらく1秒もかからなかっただろう。彼女も緊張を隠せない様子だったがなんとか僕が緊張を和ませて初めてのデートは始まった。順調の一言。普通に街を歩きベンチに座って喋ったりした。そろそろ帰宅の時間だ。もちろん男である僕は彼女を家まで送るという任務が課せられている。帰り道の学校がみえた。彼女はそれに気づき、

「ここで話してかない?」

と言った。もちろん僕は頷き、暗い夜の構内に侵入して適当な場所に腰を下ろした。デートの終盤にきて話のネタが思いつかず僕は焦った。ネタを入荷しないと。暗闇、沈黙、静寂。あれしかない。僕は今日初めて顔と声を確認した人間の肩を抱き寄せた。彼女は一瞬体をビクッと震わせ僕の胸に頭をうずめた。しばらく互いに体を抱き合った後僕は、彼女の額に口づけした。そして互いに心を許したのを確認し、顔を近づけゆっくりと唇を重ね合わせた。しばらくそれを繰り返した後僕は、彼女を家まで送り、今日のデートの終了のスイッチとして彼女にキスをして今日の出来事を振り返りながら帰宅した。やや赤く腫れた唇が家族にバレないかドキドキしながら晩飯を済ませた後、風呂に入り軽いストレッチをして布団にもぐりこんだ。夢を見る前に彼女のことを少し思うことにした。



ある日、僕らは些細なことでケンカをしていた。(言うまでもないが僕らはメール中毒者だ)ケンカの火種はむこうだ。僕はあるスポーツをやっている。だからあまりあう時がなかった。彼女もそれは承知していた。だが僕らは思春期だ。彼女はなかなか会えないことに腹を立てていたのだ。そのことがきっかけで僕らは今までの不満を言い合って相手をののしったりした。キレた。

「別れよう。」

その言葉を吐き出したのは僕だった。中毒者である僕もさすがのこの言葉は電話で伝えた。彼女はその言葉に対して首を縦に振った。僕たちは終わった。



雨がぱらつき始めた夕方四時、練習から帰ってきた僕は部屋でテレビを見ていた。この時間帯は本当につまらない番組ばかりと思っていると僕の親友が音を立てて鳴った。画面で踊っているのは僕の彼女の名前だった。しばらく画面を見つめて僕は通話のボタンを押し、ゆっくり親友を側頭部に近づけた。

「もしもし、ちょっと家の前に出てきて欲しいんだけど。」

プー、プー。僕はとまどう暇すら与えてもらえず彼女の言う通り家の前へ出ると、軽く髪の毛を湿らせた彼女がじっと僕を見据えて地面から生えていた。彼女の前に立ち僕は感情を込めずに言った。

「なに?」

彼女の目はとび出しそうなくらい僕の方をみている。ぼくは飛び出しても手でキャッチできるように頭の中でシュミレーションした。彼女の口は開かない。重たい空気、雨の音、沈黙。僕はまた感情をこめずに言った。

「黙ってるなら家の中に入るけど。」

彼女は目を細めて今度は睨むようにして僕を見た。五秒ほど経ち、やっと彼女は口を開いた。

「なんで?なんで別れたいの?」

僕は考え込んだ。理由を今さら考えてるわけではない。その言葉を言うか否かということに僕は考え込んでいるのだ。一秒、二秒、三秒、脳にいる司令官が僕に指令を下し僕は言った。核弾頭投下。

「もう好きじゃないから。」

きのこ型の爆弾の出来上がり。彼女は目をおさえて僕の見えない所へ行った。僕は罪悪感にさいなまれたが仕方ないと割り切り彼女を待つことにした。いつのまにか雨は激しさを増していた。肩を上下に震わせながら帰還した彼女は髪を雨で濡らし、顔を涙で濡らして僕の前に今までより声を荒げて言った。

「お願いだから付き合ってよ!遊びでもいいから!お願いだから・・・。」

彼女の涙腺はさらに緩んだ。僕はこの言葉に心を痛めた。こんなに自分のことを想ってくれる人など早々いるものではないのにその人のことが好きになれないというジレンマが口から煙が放出しそうになるほど胸の中でくすぶっている。だから僕の言うべき言葉は一つだけ。

「もうお前とは付き合えない。だからもう帰れよ。」

僕は「余計な優しさはかえって相手を傷つける」となにかの本で読んだことがあるのでそれに習ってあえて冷淡かつ厳しい口調で彼女に言った。彼女はこれでもかというほどクシャクシャにして目をおさえながらうつむいている。正直言うと今目をおさえながらうつむいている彼女をこの胸に抱き寄せたかった。彼女は好きだ。だけど彼女のために死ねるかといわれたら僕はYESと言えない。そこに疑問を感じて彼女との関係に終止符をうったのだ。僕は続けて彼女にいった。

「もう今日は風邪ひくから帰れよ。」

僕は彼女に傘を渡しながらふと思った。これって余計な優しさ?いや、びしょ濡れになってる女の子に傘を渡して何が悪いと思い直してさっきのゲスな考えを打ち消した。彼女は大分落ち着き顔の涙もいつの間にか雨と交代していた。男である僕は、彼女を家まで送るという任務を課せられているが彼女はその任務を拒否した。無理に遂行するのはナンセンスだと思い、ぼくの家から遠ざかる彼女の背中をしばらく見つめることにした。夕方五時半、雨は止み始めていた。



家に入った僕はまず冷えた体を四十五度のシャワーでもとの体温まで戻し、タオルで髪を乾かしながら部屋へ向かった。少し湿ったタオルを丸め、部屋の壁で笑っている僕の好きなアイドルにむかって、意味もなくトルネード投法で全力投球した。タオルが顔面に直撃したアイドルから「ナイスボール!」と聞こえたような気がしたが僕は無視してベッドにダイブした。顔を枕にうずめたままついさっきの出来事を振り返っているとベッドの上に転がったケータイが音を立てて鳴った。画面にはメール受信の文字。ボタンを押していくと彼女の名前がでてきた。メッセージを開くとそれは僕たち二人の関係が終わる事を示す文章になっていた。しかし内容はとても前向きだったので僕は少し安心し胸を撫で下ろした。僕はベッドの上で反転して天井をみつめて彼女と付き合ってから別れるまでの出来事を回想しながら本当に終わったという実感をゆっくり味わっていた。少し寂しさと切なさ、そして思春期ならではの甘酸っぱさを残して僕たちの物語は幕を閉じた。


<完>